あゆむん日記 -店の親父と定食と-

だらんだらんした生き物の停滞する日記。もう大概ツイッターにしかいませんけど

ハイクに書いた小説まとめ・嘲風(仮)1

ハイクに書いた縦ロールさんの小説のまとめ。あれはメモなので、一部改定。
続きは、こっちのブログに書くつもり。タイトルは仮タイ。
考証はやっぱりしてないっす。今のところ。
間違ってたら言ってくれると助かる。

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「Mr.オグリ。この男か?」
 アメリカ視察からお帰りになったばかりの小栗豊後守(ぶんごのかみ)様が手を引いていた金の巻き毛の西洋人形が口を利いた。
「イエス、ベス」
 豊後様がそう答えた瞬間に、俺は豊後様自体が異人の妖術の幻覚のように感じた。
「He escort you.」
 彼があなたの護衛をします。
 旗本でありながら蘭学に一時傾倒していたので、このぐらいの英語は理解できた。
それ故の異人警護の認なのは分かっていたが。
「失礼ですが、わたくしは要人警護という命を…」
「彼女が要人だ。アメリカの船会社ウィルソン汽船の一人娘、ミス・エリザベス・アレクサンドラ・ウィルソン」
 出自はともかく要人といわれても6歳ぐらいにしか見えない。
貧乏旗本ながら、漸く大樹公(将軍)の為に働けると思っていたのに、子供のお守りとは。
「がっかりすることなどない。今に分かる」
 豊後様が笑ったのとは逆に、俺の態度が気に入らないのか彼女の口はへの字に曲がっていた。
「名前は?」
「…名前は? と聞いてるのよ」
 彼女が自分に話しかけているのだと分かるのに時間がかかってしまった。それぐらい現実感がない。
西洋人形が日本語を喋っている。
「篠原惣一郎と申します。ミス・ベス」
 呼びかけた途端、彼女が更に顔をしかめた。
「I'm Alex. ソーイチ」
「しかし、豊後様は…」
「ああ、オグリはね。stubborn(頑固)だから。I dislike being called Beth.(私、ベスって呼ばれるの嫌いなのに)」
 アレックスが苦笑しながら見上げるのに、豊後様は素知らぬ顔をしていた。

 俺は横浜の外国人居留地のウィルソン邸に寝起きし、警護とアレックスの日本語教師を兼任することになった。
警護自体は一応、ウィルソン夫妻と彼女の家中をしていたが、ご主人はほぼ船の上だったし婦人は家の中であまり必要がなかった。
なにより、アレックスがとんだ跳ねっ返りで、全くじっとしていることがなかった。
 彼女が最初に俺に聞いたことは「船に乗れるか?」だった。
乗ったことがあるか?という意味かと思い、肯定すると、黒船に乗せられた。
 アレックスが「湾内を回航する」と指示を出しはじめたあたりで気がついた。
『乗れるか?』は『操船できるか?』の意味だ。
「アレックス!」
「大丈夫よ、ソーイチに頼んでないわ。船酔いしないかって意味よ。蒸気船がダメな人は結構居る…」
そこまで言ってアレックスが振り返った。
「もしかして初めてかしら?」
「近くで見るのも初めてですよ」
「じゃあ、今日は船内の案内でやめておくわ」
顎をしゃくって、俺を促した。