ハイク再録・怪談
最寄り駅の終電を逃したが、2番目に近い駅の終電には間に合ったので、徒歩15分をだらだらと歩いてマンションに帰りついた。
タワーマンションのエントランスは深夜になると電気が半灯にされてしまう。
別に不自由は無いのだが、帰りが遅いのを咎められているような気になり、誰もいないエレベータホールでちょっと小さくなりながら、エレベーターの呼び出しボタンを押して乗り込んだ。
自宅は真ん中へんの17階。
上昇する中、入った正面にある鏡で、目の下のクマっぷりの検証などをしていると、鏡の中の階数ボタンの一番上――最上階の「27」のランプが急に点いた。
17階はもっと下、自分が間違って押すはずなどがない。他の誰かが押すわけも、始めから押されていたわけもない。1階で全てがリセットされる、ごくごく良くあるエレベーターの仕様だ。
故障か?! ヤバい!
通過中の7階から上のボタンを慌てて一気になぞったが、8階には間に合わず、9階で開いたドアから慌てて飛び降りる。
エレベーターはドアが閉まって、そのまま上がって行った。
故障というわけでもないのだろうか?
とはいえ、このまますぐ他のエレベーターに乗るのも何となく怖いので、階段を下まで降り、1階にあるファミレスで一息付くことにした。
特段美味しくもないコーヒーを飲んでいると、となりの席の主婦っぽい二人の話が耳に入った。
「夕べ、隣のマンションで飛び降りがあったじゃない?」
「ああうん」
「その飛び降りた人がね、そのすぐ前に、ここのマンションの警備さんにつまみ出されてたんですって」
「ええ! やだー! 警備さんに見つからなかったらこっちから飛び降りるつもりだったって事?」
「そうでしょ。だって、こっちの方が隣より10階も高いもの。そういう時って高い方に行くんじゃないの?」
そういえば、夕べ、パトカーのサイレンがやたらとうるさかった。そのせいか。
外に続く非常階段のドアは、開くと管理室で分かると聞いたことがある。それなら、確かにすぐ見つかってしまうだろう。
私は、このマンションに住んで長いので、ここの警備さんとは顔見知りだ。夜中だからどうかなと思ったが、さっきのエレベーターの事は管理室に言いに行ったほうが良いかもしれない。
めんどくさいなと思いながら、伝票を取って立ち上がった。
エントランスを潜るや否や、オートロックの手前にある管理室のドアがいきなり開いた。
びっくりして固まっていると、出てきたのは警備さんだった。
「ああ!! さっき大丈夫でしたか!?」
「は?」
「エレベーター! 監視カメラ見てたら、途中で急に飛び出してっちゃったから」
「ああ、大丈夫でしたけど」
「ホントに!? 変なことされませんでした!?」
「え?」
「一緒に乗って来た男が居たでしょ」
「……え?」
誰も乗ってなかったはずだ。鏡にだって写ってなかった。
そして、急に最上階のボタンが点いた。ドアが閉まって動き出した状態で……。
固まってる私を他所に
「夕べもほら、似たような格好の変なの来たし」
まさか……10階低い方では満足できなかったのだろうか……。
「でも、そいつも途中で降りちゃったから、あれとは違ったんだろうけど」
「え? 一番上まで行ったんじゃ……」
「ううん。17階で降りたよ。同じ階でしょ、知ってる人だった?」
この建物より10階低いとなりのマンションの最上階は17階。
どうしよう。
タワーマンションのエントランスは深夜になると電気が半灯にされてしまう。
別に不自由は無いのだが、帰りが遅いのを咎められているような気になり、誰もいないエレベータホールでちょっと小さくなりながら、エレベーターの呼び出しボタンを押して乗り込んだ。
自宅は真ん中へんの17階。
上昇する中、入った正面にある鏡で、目の下のクマっぷりの検証などをしていると、鏡の中の階数ボタンの一番上――最上階の「27」のランプが急に点いた。
17階はもっと下、自分が間違って押すはずなどがない。他の誰かが押すわけも、始めから押されていたわけもない。1階で全てがリセットされる、ごくごく良くあるエレベーターの仕様だ。
故障か?! ヤバい!
通過中の7階から上のボタンを慌てて一気になぞったが、8階には間に合わず、9階で開いたドアから慌てて飛び降りる。
エレベーターはドアが閉まって、そのまま上がって行った。
故障というわけでもないのだろうか?
とはいえ、このまますぐ他のエレベーターに乗るのも何となく怖いので、階段を下まで降り、1階にあるファミレスで一息付くことにした。
特段美味しくもないコーヒーを飲んでいると、となりの席の主婦っぽい二人の話が耳に入った。
「夕べ、隣のマンションで飛び降りがあったじゃない?」
「ああうん」
「その飛び降りた人がね、そのすぐ前に、ここのマンションの警備さんにつまみ出されてたんですって」
「ええ! やだー! 警備さんに見つからなかったらこっちから飛び降りるつもりだったって事?」
「そうでしょ。だって、こっちの方が隣より10階も高いもの。そういう時って高い方に行くんじゃないの?」
そういえば、夕べ、パトカーのサイレンがやたらとうるさかった。そのせいか。
外に続く非常階段のドアは、開くと管理室で分かると聞いたことがある。それなら、確かにすぐ見つかってしまうだろう。
私は、このマンションに住んで長いので、ここの警備さんとは顔見知りだ。夜中だからどうかなと思ったが、さっきのエレベーターの事は管理室に言いに行ったほうが良いかもしれない。
めんどくさいなと思いながら、伝票を取って立ち上がった。
エントランスを潜るや否や、オートロックの手前にある管理室のドアがいきなり開いた。
びっくりして固まっていると、出てきたのは警備さんだった。
「ああ!! さっき大丈夫でしたか!?」
「は?」
「エレベーター! 監視カメラ見てたら、途中で急に飛び出してっちゃったから」
「ああ、大丈夫でしたけど」
「ホントに!? 変なことされませんでした!?」
「え?」
「一緒に乗って来た男が居たでしょ」
「……え?」
誰も乗ってなかったはずだ。鏡にだって写ってなかった。
そして、急に最上階のボタンが点いた。ドアが閉まって動き出した状態で……。
固まってる私を他所に
「夕べもほら、似たような格好の変なの来たし」
まさか……10階低い方では満足できなかったのだろうか……。
「でも、そいつも途中で降りちゃったから、あれとは違ったんだろうけど」
「え? 一番上まで行ったんじゃ……」
「ううん。17階で降りたよ。同じ階でしょ、知ってる人だった?」
この建物より10階低いとなりのマンションの最上階は17階。
どうしよう。