あゆむん日記 -店の親父と定食と-

だらんだらんした生き物の停滞する日記。もう大概ツイッターにしかいませんけど

書評?

9・11生死を分けた102分  崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言

9・11生死を分けた102分 崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言


発行年月 2005年09月刊行。


 ニューヨークタイムズの記者による9.11、ニューヨーク・ワールド・トレードセンターのルポルタージュ。
北タワーにアメリカン航空機が激突してから、崩壊するまでの102分の間に
内部の人達や、現場で何が起こっていたかを綿密な取材で描く。
ここには政治的介錯は一切入らない。冷静な目で時系列を追って事実が並べられます。

 テロが良いか悪いかは、基本悪いに決まってるが、
それに対する報復の善し悪しとかは、この本に置いては問題ではない。
今、読み取るべき事は、非常時に人はどうあるべきか、どうありたいのかと言うことだと思う。
 平和ボケした我々は、今、自分が居る建物の構造すら理解出来ていない。
この時もビルを管理する港湾公社は「ツインタワーはボーイング707がぶつかっても大丈夫」
だと日頃から豪語していた。だから、人々も102分でビルが崩壊するとは思わなかった。
でも、ちょっと冷静になって考えてみれば、ジャンボジェット機がぶつかって
大丈夫な建物がこの世の中にあるワケがないのは明白だ。ぶつかれば爆発するわけだし。
現に官制ミスで飛行機がぶつかりそうになったことは過去にあった。
それを想定した訓練も行われた。計算では、それでも持ちこたえると結果が出た。
でも、常識で、ちょっと考えれば分かりそうな気がする。
それは、あくまでも衝突で、突入して、貫通せず、ましてや、
内部で爆発することなど考えられていない。偶発的な事故として考えられないからだ。
例え爆発しなくとも、均衡を保って建っているビルに、
航空機の300トンを越す加重が長時間かかれば、自立していられるワケがない。
そんなものは構造計算に入っていないし、
それで耐えるような建物など、きっと核シェルターくらいなものだろう。
そんな事ですら我々は分かっていない。
 非常時にエレベーターに乗ったらヤバいとか、こじ開けるにはどうしたら良いかとかもだ。
非常ボタンを押したところで、回線が生きていなければ、向こうに答える人が居て、
その人が全てを分かってなければ何の意味もない。
当たり前だと思うかも知れないが、本当に当たり前だろうか?
コールセンターのバイトをしたことがある人、電話受けをしたことのある人ならわかるだろう。
そう、全然分かってない超下っ端のバイトの自分が電話に出ているのだ。
少々お待ち下さいと言って誰かに繋ぐ以外の事が出来るわけがない。
繋ぐ相手が多忙だったら、もう、お手上げだ。
110番だって119番だって大して変わりはないだろう。
この日の911番も同じだった。(米では警察も消防も911)
ビルの電話回線も携帯電話も生きていた。メールでやりとりしてる人も居た。
ただ、館内放送がいかれてしまっていた。中で閉じこめられた人に伝える術がない。
911で電話応対している人間には、使える非常階段があることなど分からなかった。
知らないから、警察のヘリも拡声器で避難路を叫ぶ事も出来なかった。
一様に、助けに行くからそこで待ってろとしか言えなかった。助けに行かれるかも
分からないのに。そこに人が残ってるから行けという司令すら現場に伝えられないのに。
警察と消防の無線は連携などしていなかった。
仲間内でさえ、ビルの上に行けば無線は不通になった。
お粗末なことに、この現場で、一番出力が高かったのは、
あと数ヶ月で管理会社では無くなる、港湾公社の無線だった。
NYには、この2,3年前に1300万ドルを投じて出来上がった、ジュリアーニ市長ご自慢の
危機管理センターがあった。場所はワールドトレードセンター第7棟。北タワーの麓…。
そう、全く機能しなかった。一番危険な場所にあり、避難せねばならなかったからだ。
93年に同タワーは地下での爆弾テロを受けている。それに応じて出来た危機管理センターなのに、
行政側の事態はこの時と何も変わらなかった。
建物内にいた1万4千人の内、1万2千人の殆どの人が自力、もしくは協力して
脱出路を発見し、避難したのだ。
 北タワーの高層階で、非常階段の扉をこじ開けて回ったのは、港湾公社の建築主任だった。
上へ上へと向かいながら、人々を下へと誘導した彼は帰っては来なかったが、
これは職責を全うしたと言えるのか?
人を救うのが彼の仕事では無かった。それは警察や消防、軍の仕事だ。
でも、そこに入る人々の安全を或る程度保証するのが、管理と言うことだ。
その為に彼は、彼らは努力した。それが、当たり前だと思っていた。職責を彼は全うした。
 良く、命を賭してやる仕事は尊いと言う。それは医療や治安維持の仕事だけだろうか?
どんな仕事にでも危険は付きまとう。どんな仕事でも、本当は命を賭けているのだ。
公の力ばかりが尊く重く見られ、正当化され、増長して行くが、
本当は、世界を動かしているのは一般の人々だ。頭数も動かす額も、後者の方がずっと多い。
 小さく、ささいかもしれない力、日頃は役に立たないかも知れない知識。
それを使って、必死に今どうしたら良いか考えること。強い意志。そして行動。
それが、危機に直面した時に本当に必要で、役に立つ事なのだと私は思う。


 と、ま、硬くなりましたが(ま、いつものことだけどさ…)
今年はあれから5年ということで、映画とかいっぱいかかってますけど
政治的香りがぬぐえなそうな映画より、こっちを読んで欲しいかなと僕は思います。
 これについて、今まで書かずにおいたのは、墓で、同事件について描いた小説を
まだ発表してなかったこと(もう、上げましたが)と、村上の「アンダーグラウンド」
を買ったので、日米の有事に対する考え方とかを対比して書いてみようと思ったから。
…なんだけど、どーしても後者を読む暇と読む気がしなくて…。←オイ
というワケでこういう感じに相成りました。
つか、多分、読んでも比べられない感じがするんだよね…。
同じ取材で得た話の羅列でも、向こうは感情が入っちゃってるから。
ま、これが日米のルポルタージュの違いと言えばそうなんでしょうけど。笑